2021/09/21
満月の十五夜、8年ぶりに 21日は中秋の名月
今年の「中秋の名月」は9月21日です。秋は空気が澄んで美しい月が眺められるといわれます。お月見はススキを飾った縁側でお団子をお供にというイメージがありますが、どこで眺めていても暗い夜空にぽっかり浮かぶ月は幻想的です。
中秋の名月は十五夜ともいわれます。これは新月を月の始まりとする旧暦で8月15日に当たるためで、必ずしも満月とは限りません。国立天文台によると今年は8年ぶりに満月と中秋の名月が重なるそうです。
写真連載企画「星空と宇宙」。第3回は「月」がテーマです。【手塚耕一郎】
星空の中で月の存在感は絶大です。太陽に照らされた月面の明るさは、地球上での晴れた日中と変わりません。満月の明るさはおよそマイナス12・5等級。太陽に比べると40万分の1程度ですが、空の暗い場所では月が昇ってくると天の川や暗い星々は急に光を失ったように見えにくくなります。高い山では満月に近い月光があれば、ライト無しでも歩くことができます。
輝く月面には明暗があり、昔から世界中の人が暗い部分を動物や人に例えてきました。日本でおなじみの「ウサギの餅つき」の他、「大きなハサミのカニ」、「女性の横顔」などが有名です。この暗く見える部分は「海」と呼ばれていますが、水はありません。望遠鏡で眺めると、クレーターが重なり合うような場所に比べ、海の部分はほぼ平らで黒ずんで見えます。「海」は、かつて巨大な天体の衝突によって生じたクレーターで、玄武岩質のマグマが月の内部から噴き出して表面を平らに覆った地形だとみられています。
アポロ11号が月面に着陸した地点=東京都大田区で2021年8月22日、手塚耕一郎撮影
アポロ11号が月面に着陸した地点=東京都大田区で2021年8月22日、手塚耕一郎撮影
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そんな月面の「海」は今から52年前、人類史に残る舞台となりました。1969年7月20日(世界標準時、日本時間では21日)、米国の宇宙船アポロ11号の月着陸船が、米宇宙飛行士2人を乗せて「静かの海」に着陸しました。人類史上初めて月面に足跡を残したニール・アームストロング船長が語った「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉は有名です。
三日月など月が細い時、太陽光が当たっていない月の影の部分もうっすらと観察できることがあります。これは地球で反射した太陽光が月を淡く照らしているためで、「地球照」と呼ばれます。月の満ち欠けは古くから暦として用いられてきました。現在は地球の公転周期を基に作られた太陽暦の一種「グレゴリオ暦」が世界中で使われていますが、日本では1873(明治6)年にグレゴリオ暦に変更されるまで、月の満ち欠けを基にした太陰太陽暦(旧暦)が使われていました。
満月で見られる月の模様。暗い部分が「海」に当たる=東京都大田区で2021年8月22日、手塚耕一郎撮影
満月で見られる月の模様。暗い部分が「海」に当たる=東京都大田区で2021年8月22日、手塚耕一郎撮影
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近年は「スーパームーン」という言葉がよく話題になります。月は楕円(だえん)軌道で公転しているため、地球との距離が日々変わります。1年の間で最も地球に近く、大きく見える満月がスーパームーンと呼ばれていますが、科学的な定義はありません。今年のスーパームーンは皆既月食があった5月26日でした。この時、地球から月までの距離は約35・7万キロ。一方、今年最も遠い満月は12月19日で距離は約40・6万キロです。比べると見かけの直径で約14%、面積では約30%、スーパームーンが大きく見えます。ただこのぐらいの差では、夜空を見上げて「今日の月は大きいな」と気づく人は、実はほとんどいません。
月の「裏側」は地球上から見えないという話はよく知られています。月の公転周期と自転の周期はともに約27・3日で一致していて、月は常にほぼ同じ面を地球に向けているためです。月の裏側を初めて撮影したのは1959年、ソ連の人工衛星「ルナ3号」でした。裏側には平らな地形がほとんど無く、たくさんのクレーターに覆われていました。将来、月旅行ができるような未来が来れば、月の裏を巡るツアーが行われるかもしれません。これまでに月面に降り立った人は、米国アポロ計画での12人だけです。しかし月探査を巡る動きは、近年再び各国で活発化しています。2020年代に再び月に人を送り込んで月面開発を目指す米国の「アルテミス計画」には、日本も参加しています。
観望&撮影memo
拡大撮影した月齢11の月面。中央右の目立つクレーターはティコ=東京都三鷹市で2021年8月19日、手塚耕一郎撮影
拡大撮影した月齢11の月面。中央右の目立つクレーターはティコ=東京都三鷹市で2021年8月19日、手塚耕一郎撮影
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肉眼でも月の模様は分かりますが、月のクレーターを見るには双眼鏡や望遠鏡が必要です。クレーターは低倍率の双眼鏡でも見られますが、望遠鏡で数十倍に拡大すれば、さまざまな模様やクレーターの凹凸などが詳しく観察できます。月面の凹凸は、影がある時の方がはっきりと分かります。太陽の光を正面から受ける満月前後より、横から照らされる半月ごろの方が適しています。
写真で月を大きく撮影するには超望遠レンズか望遠鏡が必要です。撮像素子がフルサイズのデジタルカメラの場合、画面に月がちょうど入るように撮影するのに必要な焦点距離は、約2000ミリです。少しコツがいりますが、双眼鏡や望遠鏡の接眼部にスマホのカメラを近づけて、方向や光軸を合わせられれば、拡大した月を撮影することもできます。簡易撮影キットも販売されています。